【漢字に秘められた想い】危なくない刑事の事件簿3



謎の好評感があり、このミステリーも第三弾です。

今回のテーマは「漢字」ですが、正直そんなに関係ないかも。。

でもでも、勉強にはちょっとだけ役立ちますよ。

ぜひ皆さんも気軽に暗号解読に挑戦してみて下さい。



それでは早速参りましょう!

謎の手紙に込められたメッセージとは?

新たな登場人物が見つけた特別な想いとは?

さぁ、誰も(おそらく)死なないミステリー!

第三弾はとあるビルの屋上から始まります!!






「私、もう飛び降りますから!」

ビルの屋上で女性がわめいているのを、

刑事の勉強犬男は同じ屋上の入口付近で、

一定の距離を保ちながら冷静に見つめている。



そこに走り寄ってきた後輩の田中が勉強犬男に小声で報告をする。

「女性の名前は山崎乙子(おつこ)。年齢は28歳。書道家の卵みたいっす。それにしても美人で」

「書道家か。漢字、詳しいかな…」勉強犬男が田中の言葉をさえぎってつぶやく。

「さて、いきますか」そして、そう言って一歩ずつ女性に近付いていく。



「いや、来ないで!」

山崎乙子は今にも飛び降りそうだ。

「こんにちは、私は勉強犬男という者です」

勉強犬男はゆっくり近付きながら笑顔で声をかける。

「そんなの知らないわよ!」と山崎乙子はもちろん怒る。

「今日はこんなにいい天気なのに、何かあったんですか?」

そう言いながら、勉強犬男は山崎乙子の手に何かが握られていることに気付く。



「天気なんて関係ないわよ!私は…」

彼女はそう言いながらうつむくが、勉強犬男は微笑みを崩さず再び質問をする。

「その手にあるのは、何ですか?手紙の、封筒のように見えますが」



彼女は握りしめたそれに一瞥をくれ、

くしゃっとさらに丸めてから、勉強犬男の方に向かって放り投げる。

「わけわかんない手紙よ!私は捨てられたのよ!」

どうやら飛び降りようとしている理由は痴情のもつれらしい。

そんなことぐらいで死ぬなよ、と思いながらも勉強犬男は微笑みを崩さない。



「どれどれ…」

勉強犬男が丸められた手紙を拾って、

封筒から一枚の便箋を取り出す。

そこには謎の文章が書き込まれていた。





「これは…また不思議なお手紙ですね」

「全然不思議なんかじゃないわよ!何がDear My Friendよ!誰がえつこよ!私は…私はずっと待ってたのに」

どうやら彼女の怒りと悲しみはピークに達しているようだ。



封筒から読み取れる情報は、

これが海外、アメリカから送られてきたものだということ。

そして、今日の日付指定で届けられたものということだ。

「出されたのは約3ヶ月前…か」

最愛の恋人の海外からの帰りを待つ山崎乙子が、

友達扱いされた挙句名前を間違われたこの手紙を読んで発狂したということか。



「今日はあなたにとって特別な日なんですか?」

勉強犬男は優しい声で尋ねる。

山崎乙子は一瞬驚いた顔を見せるが、すぐに怒鳴るように言う。

「そうよ!私の誕生日よ!なのに信じてた人に名前も間違えられて…」

わなわなしている。

「おかげさまで最低の日になったわ!」



なるほど、と勉強犬男は笑顔で頷く。

この文章の謎は解けたが、

どうしてこんな暗号のような形にしたんだろうといくつか思案を巡らせて、

質問を絞り込んでから、彼女へと訊いた。



「この手紙の送り主は…修行中かなにかなんですね?」

山崎乙子は再び驚きの表情を見せる。今度は怒鳴らなかった。

「な…なんでわかるの?」

「とっても簡単なことですよ」

勉強犬男は手紙を丁寧に折りながら、少しずつ山崎乙子に近付く。

彼女も警戒はしているが続きを聞きたがっているようだ。

「なんであなたにこんな暗号のような手紙を送らなければならなかったのか考えればね」

「え、どういうこと?」

山崎乙子は初めて落ち着いたトーンで言葉を浮かべた。

勉強犬男は「説明しましょう」と言って、だいぶ近付いたところでその歩みを止めた。



「この手紙の送り主は、なんでこんなおかしな手紙を書いたと思います?」

勉強犬男は真っ直ぐ山崎乙子を見据えた。少しおどおどしながら彼女が答える。

「そ…それは…私のことなんかどうでもよかったから…」

「どうでもよかったらこんな面倒臭い手紙なんて送りませんよ」

勉強犬男は再度、山崎乙子に対して優しい眼差しを向ける。

「これは間違いなく、まぎれもなく、あなたの為に書かれ、あなた宛に出された手紙です」

そして、手紙へと視線を落としてそっとつぶやいた。

「こんな愛の溢れた手紙をもらえるあなたは、とっても幸せ者ですよ」



山崎乙子の足が一歩内側へ近付いた。

その様子を入口付近で見ていた警察の偉い人が、

周りの警官たちに確保の指示を出す。

が、それを下っ端も下っ端の田中が制す。

「きっとまだっす。勉強犬男さんを信じてあげてくださいっす」



「どういうこと?愛なんてどこに?」

再び怒気がこもりそうになった山崎乙子の言葉を、

一つこくんと頷いて受け止めたのち、勉強犬男は言葉を続ける。

「まぁ、怒りたくなる気持ちもわかります。でも、彼も気持ちが抑えきれなかったんですよ」

山崎乙子が「え?」と小さくつぶやいたが、屋上の風にかき消された。



「咲という漢字…」

勉強犬男が思い出すように言う。

「この漢字、【花が咲く】のように使いますが、元々どういう意味だったかご存知ですか?」

予想外の勉強犬男の質問に、山崎乙子は聞き取りにくいような苦い顔をしたが、

すぐに手紙に書かれた【咲】という漢字についての話だと認識し、恐る恐るだが答えた。

「たしか…【笑う】という意味だったんですよね」

今度は勉強犬男が驚いた。

「その通りです。さすが書道家のお方だ。【咲】という漢字に口がついているのもその名残ですね。そういえば芸能人でも咲と書いてえみと呼ぶ名前の方がいらっしゃいますよね」

「そ、それが何か?」山崎乙子はまたイライラしだした。



「おい、あれ本当に大丈夫か」

屋上の入口付近でその様子を見守る田中に、同僚が声をかけた。

「た…たぶん…」そう答えるしかなかった。

「きっと大丈夫ですよ」二人の後ろから勉強犬男ファンを公言する婦警の海田春香が声をかける。

「勉強犬男さんは無愛想な人ですけど、心の機微がわかる人でもありますから」

春香がニコッと笑った。それでも気が気ではない田中は、ごくりとつばを飲んだ。



「お手紙を出した方は、あなたのどこが好きか、事あるごとによく言っていませんでしたか?」

勉強犬男が微笑みを浮かべながら尋ねる。山崎乙子が呟くように言う。

「笑顔…」「そう」勉強犬男が頷く。

「この手紙を読むにはもう二つのヒントが必要です。まず、この追伸に書かれているあなたの好きな本とは、かの有名なミステリー作家アガサ・クリスティの本ではありませんか?」

この質問も的確だった。山崎乙子は「そ、そうですけど…」と応える。

「私も好きですよ。名探偵ポアロ。『メソポタミヤ殺人事件』良いですよね〜。あと名探偵は出てきませんが『春にして君を離れ』も好きです。それにそれに…」

勉強犬男はそこで山崎乙子が冷めた目でこちらを見ていることに気付き、

こほんと咳払いをして本題へと戻る。

「さぁ、そして最後のヒントは、これが何で書かれているか、です」

山崎乙子は少し考えたが、文面を思い出したのか、はっとした様子で答えた。

「ひらがな…」「その通り」勉強犬男が指をぱちんと鳴らした。



「では、それを踏まえて、もう一度このお手紙を読んでみて下さい」

勉強犬男がそっと便箋を差し出す。山崎乙子はそれを手に取り、文字を追う。

いつの間にか二人の距離はそこまで近付いていた。





未だ不思議そうな顔をしている山崎乙子に勉強犬男がヒントを加える。

「いいですか、ヒントは【笑顔】【アガサ】そして【ひらがな】ですよ」

しばしの沈黙。読者のみんなも考えるなら今だ。



なおも困っている様子の山崎乙子に再度勉強犬男が、やさしくヒントを加える。

それはヒントというよりもほぼ答えだったが、

その答えは、ぜひとも山崎乙子本人に読んでほしいものであった。

「【え】が【お】、【あ】が【さ】、【ひら】が【な】になるということです。さぁ、じっくり読んでみてください」

山崎乙子がゆっくり、便箋の文面を追う。

一つひとつの文字に込められた確かな想いを見つけながら、

さっきまでとは違う、怒気も寂しみもない、澄んだ響きを持つ声で読み上げる。

それはそれは愛に満ちた、やさしい言葉たちを。

「…おつこ」そう、名前は間違ってなんかいなかった。

「…おれは…あなたを…」一度言葉に詰まる。

「あいしてる…」それは彼女がずっとずっと待っていた言葉だった。

山崎乙子は思わず口元を抑える。

「続けて」勉強犬男がお楽しみはこれからですよ、といった調子で促す。

「…あした…」陽が彼女を照らして、キラキラ輝いているようだった。

「…あおうな…?」

顔を上げた山崎乙子の目にはかすかに涙が溜まっていた。勉強犬男は今日一番の笑顔を向けた。

「ね、これ以上ない愛のメッセージでしょう」





「結局、なんであんな手紙にしたのかしら」

落ち着きを見せた現場で海田春香が疑問を浮かべる。

どうしても中身が見たかった海田春香は、

帰り際に山崎乙子に中身を見せてもらっていた。

田中が「ミステリー好きだからじゃないっすか?」と答えたが、

勉強犬男がにやりとしたのを海田春香は見逃さなかった。

「ねぇ、犬男さん。なんでなんですか?」

まんざらでもないような様子で勉強犬男が答える。

「手紙の主は何かしらの修行中の身。おそらくだが、一人前になるまでは恋愛禁止のようなルールがあるのだろう。出そうとする手紙ももちろん師匠筋に見られる。だから、その溢れ出る愛情が誰に読まれても伝わらないようにカモフラージュせざるを得なかった。だから、乙子さん以外には読めない手紙にした」

「なるほどっすね」田中が大袈裟に相槌を打つ。

「そうか、彼はやっと日本に帰れる日が決まって、気持ちが高ぶってどうしてもそのことを伝えたくなってこの手紙を書いたってわけですね」

海田春香の発言に勉強犬男が頷く。「その通りだ」

「でも、私だったらあれが愛の手紙ってすぐに気付いたのになー」

不意の一言に今度は勉強犬男が訊く側に回る。

「どういうことだ?」

「私、昔アメリカに住んでたんですよー」

勉強犬男に尋ねられて海田春香は少し嬉しそうだ。

「アメリカでは、四つ葉のクローバーの花言葉は【Be mine…私のものになって私を想ってください】」

「ん?」と田中が首を傾げた。海田春香がニッコリ笑って言う。

「この手紙には、私の【真実の愛】を込めましたってことですよ」




1ヶ月後。

勉強犬男の働く塾には、

書道家、山崎乙子の姿があった。

あの事件の帰り際、海田たちが手紙を読んでいる際、

勉強犬男は山崎乙子をこう口説いていたのだ。



「私の働いている塾は、ネットを使って世界中の生徒たちに個別指導をするシステムです。それもなるべく良心的な価格でね。教育を受けたいというニーズは世界中に溢れている。そのニーズに応えるためには優秀な教育者の人手が必要なのです。そう、あなたのようなね」

ちなみに、山崎と財前の二人は来春にでも結婚式をあげるらしい。




事件がある限り、そして勉強に謎がある限り、

勉強犬男の物語は続いていく。

これは誰も死なないミステリー、危なくない刑事の事件簿。

さぁ、次回も乞うご期待!







はい、まさかの第三弾でした。

「次回も怖くないミステリーにしてね」とお願いを貰ったので、

今回も同様怖くないミステリーにしてみましたが、いかがでしたでしょうか。

3つのうちどれが好きか教えてくれたりすると作者もテンションが上がります。



本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。 

楽しみにしている方が一名でも居る限り、続きます。





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塾という場所が好きです。生徒の成長する姿を見るのが好きです。生徒や保護者と未来の話をするのが好きです。合格や目標を達成して一緒に喜ぶのが好きです。講師と語り合うのが好きです。教材とにらめっこするのも好きです。新しい人と出会うのも好きです。ブログも、好きです。

勉強犬

「第二の家」学習アドバイザー。
世界中に「第二の家」=「子どもたちの生きる力を育てる場所」を作ろうと画策中。過去に3000人以上の生徒の個別指導経験を持つ。元広告営業犬。学生時代は個別指導塾の講師。大手個別指導塾の教室長(神奈川No,1の教室に!)・エリアマネージャーを経て、2015年ネット上で「第二の家」HOME個別指導塾を開設。

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