「さぁ、みんなでおとぎ話を考えよう」という授業を思い出した


2年ぶりぐらいに森絵都さんの「みかづき」を読んで、「そういえば…」と思い出したことがありました。


そういえば、かつて、その本の文中にもあった「作文で学力を育てる」という試みを教室で催そうと思い、特別講義をしたことがあったなぁ。


その時のお題は「おとぎ話をアレンジしよう」でした。生徒や講師に、有名なおとぎ話をモチーフにした思い思いの文章を書いてもらって、添削し、それをきっかけに国語についての指導を行うというものでした。


その時に「お手本」として、発起人の講師たちといくつか先にお話を準備しました。それらが本当に「お手本」になったのかどうかは不明ですが、みんな楽しんで読んでくれていたような記憶があります。


探したら出てきたので、本日はそれをご紹介しましょう。いつか機会があれば他のものも載せていきますね。以前にもどこかのブログで紹介したことがあるのですが、ちょっと手直しして掲載します。


どこでどんな風にあの有名なおとぎ話とつながるか、楽しみながらご覧いただければ幸いです。



タイトルは、「外伝」



闇の彼方から。


波の向こうから。


空に浮かぶ満月に照らされて、舟が一隻。


やさしい風に運ばれて、どこへ行くのか。



『外伝』



どれ程の時間が流れただろう。


揺られた舟はどこかへたどり着いた。


そこは小さな島のようだ。


闇の中、茂みの奥で何かが動いた。野うさぎと、女だ。島の住人である若い女。彼女は野うさぎにつられるようにして、島に漂着した舟を見つけ、恐る恐る中を覗き込んだ。そこには、見知らぬ男が一人。女は二言三言、野うさぎと言葉を交わすと、舟と男を引き上げた。


女の家の中へ舞台は移る。布団の上で死んだように眠る男。幾日か時が経ち、ある朝にやっと目を覚ました。


男の眼前には、女が一人。不思議そうに、こちらを覗いている。


男は一瞬驚きたじろいだが、女の優しい眼差しにその緊張は解かれ、少しだけ心が和んだ。そして、気付いた。自分と、女との間の違い。少し赤い肌、見慣れぬ衣、そして、おでこからちょこんと出た角。その女は驚くべきことに、人間ではなかったのだ。


鬼。ただ、男の持つイメージの鬼とは違い、女は丁寧なやさしい口調で話をしてくれた。


この島は地図にない島。鬼達は人を嫌い、この島からは一歩も外へ出てはいけない掟があるらしい。何百年も続くそのしきたりの中で生きてきた女にとって、男が、初めて見る人間のようだ。


男が問う。「それでは、なぜ俺を助けてくれたのだ?人間は憎むべき存在なのでは?」


「そうかもしれません。ただ、見過ごすことが出来なかったのです。人間を嫌うと言ってもそれは受け継がれてきた伝統のようなもので、実際私達は人に会ったことさえないのですから」


「そうか。俺はやはり助けられたのだな」少し体勢をずらして男が続ける。


「礼を言う。ありがとう。…そういえば、舟は?」


「隠してあります。そうは言っても人間をかくまうというのはやはり許されぬことですから」


「そうだな。すまない。すぐに出ていく。邪魔をしたな」


男は立ち上がろうとしたが、瞬間走るのは激痛。すでに男の身体はボロボロであった。とても歩けるような状態ではない。


「いけません。今外へ出てもつかまるだけです。ここならば安全ですので、もうしばしお休み下さい」


「そ…そうか。本当にすまない。何も礼は出来ぬのだが…」


「いいえ。実を言うと少し安心したんです。人間は恐ろしいものだと伝えられていましたから」


「…安心?」


「とてもあなたはそんな風には見えませんから」


女はやさしく微笑んだ。


人と鬼。どうやら二人はお互いに偏見を持っていたようだ。鬼といっても、角などは生えてこないものもいるらしい。肌の色も少し赤い程度。着ている衣は少し独特だが、よくよく見れば人とさほど変わらない。それに、鬼は動物に好かれる。元来、人よりも心やさしき生き物なのだ。


「…あの、これいかがですか?」


そう言いながら女が出す料理は旨いものばかりだった。話を聞くと、この島の野菜や果実は人間界のものと比べて遙かに大きく育つらしい。おかげでおいしいのだが食べきるのは大変だ。


 一日、二日、一週間と一緒にいる時間が長くなるにつれ、だんだんと二人はお互いに惹かれあっていった。そして、つられるようにして、笑顔も増えていった。


お互いを知ることが喜びになった。お互いのやさしさであり得なかったはずのつながりができた。点と点は境界線を超えて結ばれて、やがて許されぬ愛が生まれた。


「いつまでも一緒にいられますように」


そんな願いを込めて、二人は庭先に男が大好きだという花の種を植えた。


しかし、二人の恋の終わりは突然だった。


男の追放。とうとう男は村の衆たちに見つかってしまったのだ。男を乗せて、彼方へと流された舟が闇夜に消えていく。


手を振ることさえ許されなかった。途絶えたつながり。人の一生は鬼よりもはかない。もう二度と会うことはない。


女は泣き続けた。何日も、何日も。涙は枯れることなく、やがて女は己の身を投げることまで考えた。


そんなときだった。


女は、あることに気付いた。


新しい命が自分の中に宿っていること。我が身の中に、愛が創った小さな小さな宝物を見つけたのだ。庭先には、綺麗な花が咲いた。


離したくはなかった。絶対に。離したくはなかった。一緒にいたかった。いつかいつか、あの人だって一緒に、三人でもう一度笑いあいたかった。叶わぬ夢を、何度も何度も星に祈った。


しかし、いつまでも子どもと一緒にいるわけにはいかなかった。ここにいれば殺される。人と鬼の子供。厳しい掟が支配するここで、それはとても許されることではなかったのだ。


花が枯れた。子どもとの別れ。


涙も枯れた。はかなき恋の調べ。


泣き声だけが響く。鬼達は女を罰することを決めた。最後の別れ。


女は最後の力を振り絞って、人間界へ通じる川へ子を流すことを決めた。食べ物に困らないようにと、大きな大きな果物に包んで。


あの人が好きだった名も知らぬ果実。いつかあの人へ届くようにと、最大限の愛といっぱいの祈りを込めて。


いつかもう一度会いたかった。


頭を撫でてやりたかった。


たくさんのことを教えてあげたかった。


もっともっと抱きしめたかった。


ずっと笑っていたかった。


ただ、あなたといつまでも一緒にいたかった。


さようなら。






どんぶらこ、どんぶらこ。


子どもを乗せて川を行く果実。


そして、それはある時おばあさんに拾われ、その子どもは、いずれもう一度その島に立つことになる。


悲しみと切ない恋の果て。


数奇な運命の下、犬と猿とキジを連れて。







何のお話の外伝か、おわかりいただけたでしょうか。


ぜひぜひ、あなたの作った「おとぎ話オマージュ作文」もお待ちしております。メールでペンネームと併せていただければ、このブログでご紹介しますね。


本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。

レッツ作文。

HOME〜私の好きな塾という場所〜

塾という場所が好きです。生徒の成長する姿を見るのが好きです。生徒や保護者と未来の話をするのが好きです。合格や目標を達成して一緒に喜ぶのが好きです。講師と語り合うのが好きです。教材とにらめっこするのも好きです。新しい人と出会うのも好きです。ブログも、好きです。

勉強犬

「第二の家」学習アドバイザー。
世界中に「第二の家」=「子どもたちの生きる力を育てる場所」を作ろうと画策中。過去に3000人以上の生徒の個別指導経験を持つ。元広告営業犬。学生時代は個別指導塾の講師。大手個別指導塾の教室長(神奈川No,1の教室に!)・エリアマネージャーを経て、2015年ネット上で「第二の家」HOME個別指導塾を開設。

0コメント

  • 1000 / 1000