それは三度目の邂逅であった。席についた瞬間、甦った記憶に押しつぶされそうになって、私は天を仰ぐ。
動き出そうとするその巨大でカラフルな乗り物は、これから私を悪夢のような世界へと誘う。それはわかっていた。わかっていたのだけれど、乗ってしまった。ノリというのは本当に怖い。
赤と青と黄色で彩られたそのボディーが、太陽の光を反射する。少しずつスピードを上げていく機体。回転を始める円盤。青空、海、人の群れ。視界が次々と変わり、三半規管が揺さぶられる。すでに気持ち悪い。そんな私を尻目に、奴はどんどんそのスピードと高さを増していく。
うーん、やっぱり嫌いだ。高さ約10mの宙空から放り出されそうになりながら、私は思い出していた。
私を苦しめるこの悪魔のようなアトラクション「スーパープラネット」との激闘の日々を。
今回は、塾ブログらしからぬ完全余談でお送りしよう。これからお伝えするのは、私たちと「スーパープラネット」略して「超惑星」との激闘の記録である。
スーパープラネットとの激闘の記録 一章 出会い
私が奴と初めて出会ったのは、みなとみらいの遊園地をふと訪れた時であった。
世界最大の時計機能付き観覧車などがそびえ立つ横浜の人気遊園地「コスモワールド」。その一角、イタリアのブラーノ島をモチーフにした「ブラーノストリート」に奴は居た。
「絶叫系は得意」と当時の私は完全に調子に乗っていた。「富士急ハイランド」や「よみうりランド」など遊園地好きの私は、行けば必ず絶叫系のアトラクションに乗ってそれを楽しんでいたからだ。
初めて「コスモワールド」を訪れた私は、「え?コスモワールドの絶叫系?ちょっとしょぼくない?」なんて、たかをくくっていた。
そして、「超惑星」に出会った。
最初の印象は「あー、なんか適度に面白そうじゃん」。聞こえてくる絶叫に胸は高鳴った。まぁでも大したことはないだろう、なんて思いながら、私はチケットを購入した。
入場料は600円。割高だが、みなとみらいの景色も一望できるし、まぁいいだろう。ちょっとした遊びだ。
強烈な引力と無重力のような体験ができる高速回転アトラクション!
そんな文句にも惹かれて、「無重力、体感させてもらおうじゃないか」と意気込んで乗り込んだ。
そしたら、
楽しんだ挙げ句、めっちゃ気持ち悪くなって帰ってきた。
「こ、これやばい…」
貧相な語彙で仲間たちにこの乗り物のヤバさを伝えた。だが、あまり伝わらなかった。「え、何がやばいの?」「面白そうじゃん」と恐れを知らず乗り込む仲間たち。まだちょっとだけ元気だった私も、つられて乗り込んでしまった。二度目の戦い。
そしたら、
やっぱり楽しんだ挙げ句、もっと気持ち悪くなって帰ってきた。
そして、もう二度と奴に「乗ろう」と言い出す者はいなかった。
恐るべし、「超惑星」。
▲外観。このレトロ感も曲者。
▲ナイス注意。もうこの看板がちょっと気持ち悪い。
▲並びのディスクオー。これもこれで気持ち悪いが無重力は経験できない。
スーパープラネットとの激闘の記録 二章 強い奴を探せ!
こてんぱんにやられて帰ってきた日から数日が経ち、傷も癒えてきた頃、仲間たちの間で「超惑星を超える乗り物があるか」という話題が活発に話し合われるようになった。
何を持って「勝つ」のかはわからないが、奴に一矢報いたいという気持ちが、私たちを動かしたのだと思う。「超惑星」との出会いは、それだけ衝撃的だったのだ。
まず私たちが目をつけたのが、近くて便のいい遊園地「よみうりランド」であった。輝くイルミネーションや神奈川最速を誇るアトラクション「バンデッド」が有名な、1964年に開園したこの老舗遊園地であれば、「超惑星」を軽く屠ってくれる乗り物に出会えるだろうと踏んだのだ。
ここに当時のレポートがある。Facebookからの抜粋である。
スーパープラネット(コスモワールドの乗り物。以下、超惑星)10番勝負 vs読売ランド編
◆超惑星×バンデッド
開放感と景色は最高だが恐怖と気持ち悪さが足りないのでスープラの勝ち
◆超惑星×ゴーカート
高速は楽しかったけど全体的に圧倒的にスープラの勝ち
◆超惑星×ジャイアントスカイリバー
水に難がある私ですが難無く終わったのでスープラの勝ち
◆超惑星×モモンガ
回転とか速度とか良かったけど短すぎでスープラの勝ち
◆超惑星×ルーピングスターシップ
一回転に期待値高めだったけど頭に血が上っただけでスープラの勝ち
◆超惑星×太陽の神殿
なんだか良くわからなくてスープラの勝ち
◆超惑星×ヒーロートレーニングセンター【ミッション8】
いい感じで疲れて楽しかったけどそもそも乗り物じゃないのでスープラの勝ち
◆超惑星×クレイジーヒューストン
大ボスの存在感と景色は素晴らしいが少しパンチが足りずにスープラの勝ち
◆超惑星×お化け屋敷無黒屋
あんまり怖くなくてスープラの勝ち
◆超惑星×ミルキーウェイ
まさかの三半規管攻撃&シャボン玉で一瞬焦ったけどスピードの違いでスープラの勝ち
結局、今回の調査でもスーパープラネットを超える乗り物には出会えませんでした。次回調査に期待します。怖くて気持ちも悪くなる【楽しいけど二度と乗りたくない乗り物】、絶賛募集中です。
おまけ
◆超惑星×イルミネーション
綺麗さではダントツでイルミネーションの勝ち。
ちなみに、文中の「水に難」とは、以前に静岡は一碧湖で溺れた経験のある私の実感である。
▲高い。大ボスの存在感はあったが、爽快感がありすぎて「超惑星」には太刀打ちできない。
▲一瞬焦ったミルキーウェイ。これは隠さない伏線です。覚えておいてね。
▲見た目ほど怖くないんだよ。大人気スターシップ。
以上の通り、「よみうりランド」は、たしかに魅力的な遊園地だったが、残念ながらあの「超惑星」を超えるアトラクションには出会えなかった。
ここで私たちは、「遊園地アトラクション研究会」なる会を発足。「超惑星」打倒のために、力を尽くすことを再度誓いあうのであった。
物語は続く。読者の皆様はついてきているだろうか。
スーパープラネットとの激闘の記録 三章 最強の敵と兆し
「よみうりランド」の激闘から約半年後、私たちは次なる目的地「としまえん」へと足を踏み入れることとなる。
「としまえん」は「としまえん」と言いながら練馬区にある、7つのプールや日本最古のメリーゴーラウンド「カルーセルエルドラド」を擁する人気遊園地である。
我々は機体に胸を躍らせていた。いや、違う違う。期待に胸を躍らせていた。遂に今日、あの「超惑星」を倒せるアトラクションに出会えるのではないか、と。
ここに当日記されたであろう、調査報告書がある。我々研究会の調査員の一人がFacebookにて書き残したものだ。まずはそれを見ていただこう。
中間調査報告
スーパープラネット(コスモワールドの乗り物。以下、超惑星)12番勝負 vsとしまえん編
◆超惑星×フライングカーペット
スタートダッシュの速さや安全バーが緩いところが恐怖だが慣れると楽しくなるのでスープラの勝ち
◆超惑星×トロイカ
グラグラと不安定な動きと速さもあるがただ単に気持ち悪いだけなのでスープラの勝ち
◆超惑星×フライングピラティス
PIRATESをピラティスと読んだ奴がいたので勝てそうだったけどスープラにはない爽快さがあるのでスープラの勝ち
◆超惑星×ブレイクダンス
ビミョーな回転に気持ち悪くなった者が約2名。怖くもなくただ気持ちが悪いだけの乗り物。隊員がトイレに駆け込んだのでスープラの勝ち
◆超惑星×ミラーハウス
ただの鏡の迷路だろうと馬鹿にしていたが閉所恐怖症の迷子が1名。どうやっても出口が分からず隊員にHELPを求めるが助けは来ない。半泣きで小学生のあとをつけてゴール。ズルしたのでスープラの勝ち
◆超惑星×コーススクリュー
ねじれることはねじれていたけど、短すぎるので終わるのが早すぎる。こんなにアッサリしていてはネチっこいスープラに勝てるはずはないのでもちろんスープラの勝ち
◆超惑星×ミステリーゾーン
外観は洋風の建物なので洒落たものを期待したが中は純和風ということで予想外。予想外というキーワードは惜しい気がするがやはりスープラの勝ち
◆超惑星×フリュームライド
4人の体重がかかりどんぶらこどんぶらこ揺れて楽しかったが横道にそれて落ちることはなくスリルに欠けていた。コスモワールドの丸太ライドに軍配が上がるのでコスモ繋がりでスープラの勝ち
◆超惑星×イーグル
見た目はスープラに似ていたしかなりの高さもあり怖かったがスピード感や気持ち悪さが足りないのでスープラの勝ち
◆超惑星×マジック
三半規管攻撃を受け隊員1人が「回る系の乗り物ギブアップ宣言」をしてしまったのでスープラの勝ち
◆超惑星×お化け屋敷
外観は純和風だが中も予想通り純和風だった。叫び声が出ないほどの恐怖がないとスープラには勝てない。ということでスープラの勝ち
◆超惑星×サイクロン
なかなかのロングコース。気分爽快になってしまってはスープラを超えることはできない。ふかふかのシートの乗り心地がとても良いのでスープラの劣悪な環境を超えることはできないようだ。ということでスープラの勝ち
結局、今回の調査でもスーパープラネットを超える乗り物には出会えませんでした。ただしウェーブスインガーだけは素質を秘めているようです。
※誰一人ウェーブスインガーのことを話題にしない
※ウェーブスインガーと目を合わせない
※よけて歩く
※存在に気付いていないふりをする
これらの隊員の行動がスープラの敗北を示唆しています。ウェーブスインガーの正式な調査はまた次回にします!怖くて気持ちも悪くなる【楽しいけど二度と乗りたくない乗り物】絶賛募集中です。
おまけ
としまえんには出入口が3つもあることに驚きました。ですが我らの出身地コスモワールドにはそもそも出入口など存在してませんので我らの勝ちです
トロイカやブレイクダンスあたりで怪しい気がするが、まだまだ「超惑星」は譲らない。もはや何の勝負をしているのか、わからなくなってきた感はある。
▲話題のブレイクダンス。ぐるぐる。いい線いってた。
▲ピラティスではない。パイレーツだ。
▲昔ながらのお化け屋敷。いい味出してる。
そして、遂にここで最強の敵が現れる。その名は「ウェーブスインガー」。
宙吊りになったブランコが回る例のやつである。各地の遊園地に存在する有名アトラクションだ。
▲見るだけで気持ち悪い。
レポートにもある通り、これは「超惑星」も潮時か…と思われた。しかし、研究会のある隊員が気付く。
あれ?これ、どこかで見たことないか?
そう、しっかり伏線も張っておいた。
実は、「よみうりランド」にあった「ミルキーウェイ」はなんとこの「ウェーブスインガー」の上位互換。上位互換の理由は、「シャボン玉が出る」である。幻想的。
「ミルキーウェイ」が敵わなかった「超惑星」に、その下位互換である「ウェーブスインガー」が勝てる道理なし。
というわけで、「ウェーブスインガー」には乗らなかったが、「超惑星」の最強伝説は守られたのである。
ここまで綴ってきていて、私も気付いた。
私たちは、「超惑星」が好きなのだ。
そんな気付きを得たところで、そろそろ、最終回である。
スーパープラネットとの激闘の記録 四章 大好きな大嫌い
度重なる戦いを経て、私たちは、気付いてしまった。
私たちは、「超惑星」が好きなのだと。負けさせたくないのだと。
「としまえん」調査レポートの最後にも答えが載っている。私たちは、「コスモワールド」や「超惑星」を含めて「我ら」と称しているではないか。
そう、いつの間にかに私たちは、「超惑星」の敵ではなく、味方になっていたのだ。
あれほど嫌いだったのに。あれほど憎んだのに。あれほど乗った自分を責めたのに。めっちゃ気持ち悪いのに。
考えて想像して調べて知って、私たちはどんどん「超惑星」について詳しくなっていった。「神奈川県横浜市中区新港2-8-1」ほらね、住所まで言える。
断言できる。「好き」なものの逆は「嫌い」じゃない。「無関心」だ。
ということは、「嫌い」なものを「好き」にするには、とにかく触れればいいということだ。相手を知ればいいということだ。そうすれば、それは少しずつ少しずつ「嫌い」から「好き」に近付いていく。「嫌い」だけど、「好き」になっていく。「嫌い」なのに、「好き」になっていく。
そう、大好きな、大嫌いになる。
人や勉強だって同じかもしれない。「嫌い」をなくしたいなら、とことん知ればいい。相手の生まれたところ、そこからの物語、今在る理由、自分と同じところ、違うところ、使い方や使いみち、とにかく学べばいい。知れば知るほど、あなたは相手に近付く。学べば学ぶほど、あなたは相手が気になっていく。
そうすればきっと、私たちがそうであったように、いつの間にかに生涯忘れられない友人ができるであろう。図らずとも、大好きな、大嫌いに、巡り会えるだろう。
回転が終わる。私はそんな思い出に浸りながら、シートベルトを外すタイミングを待つ。気持ち悪さを噛み締めながら、指示に従ってベルトを外し、一歩目を踏み出してふらついた瞬間に気付く。
あ、こりゃ違う。やっぱり敵だ。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
「超惑星」あらためスーパープラネット、ぜひ一度乗ってみてください。
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