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ある体育祭の奇跡の物語

それは、私のささやかな夢だった。

私が中学校の教員になって、これまで担任として受験や行事を沢山経験してきたのだけれど、なぜか不思議と、受け持ったクラスが体育祭で優勝することはなかった。

別にそのことをそんなに気にしているわけではないんだけど、ふと生徒たちにそんな話をしたら、「先生、じゃあ俺たちが優勝してあげるよ」というので、楽しみが増えた。

「じゃあ、応援合戦優勝とブロック優勝と学年優勝のトリプルクラウン獲ったら叙々苑奢って。大人になった時でいいからさ」という条件付きだったが、安請け合いで「いいよ」と答えた。

応援合戦はうちのクラスの得意分野で、贔屓目に見ても優勝は堅いと感じていた。

ただ、ブロック優勝と学年優勝は、ちょっと難しいだろうなぁという感じ。うちは青組なのだけど、強敵は茶組だ。茶組にはパワー系の部活動のキャプテン達、通称ビッグ4が控える。予行練習での綱引きなど、勝てた試しがない。

青組の勝機があるとすればリレーか。ただ、種目ごとの総得点を計算するとやっぱり少し難しそう。叙々苑はけっこう遠いかも。

でも、練習の段階から嬉しいことは沢山あった。なかなか学校に来れないAが「体育祭は全部出たい」と言ってくれたし、応援団長のBは「後輩にいいとこ見せなきゃ」と苦手な勉強も頑張るようになったし、体調不良気味のCはお医者さんからすべての競技への参加を認められた。

運動が得意な子も、そうじゃない子も、メンバー決めなどみんな知恵を絞ったり、真剣に練習に取り組んだり、声出しをしたりしていて、みんな優勝を目指して頑張っていた。

運動が苦手な子だって卑屈になるわけじゃなくて、「その分自分はこんなことをやるよ」っていう話をしていて、手前味噌ながら「良いクラスじゃん」と思ってしまった。

私は行事が好きだ。

みんなで一つの目標に向かって団結して頑張る。勉強ももちろん大事だけれど、「みんなで頑張る」ことの楽しみや大変さや嬉しさを知ることも、学校生活ではとても大事なことだと思う。

みんな頑張っている。たとえ優勝という結果が伴わなかったとしても、そんな姿勢を見れただけで、私はなんだかすごく嬉しかった。

というわけで、素晴らしい生徒たちから、体育祭前にもう十分HAPPYをもらっていたわけだけれど、彼らは体育祭当日も、私にそれはそれは素敵なプレゼントをくれた。今日はそんな話をしようと思う。

あ、ちなみにこの物語は、どこかの体育祭で起こっただろう事実を元にして作られた完全なフィクションです。念の為。

ある体育祭の物語


体育祭当日、これでもかというぐらい良い天気の中で激闘は始まった。

語りたいエピソードが沢山あるのだけれど、時間がなくなってしまうのでダイジェストのように伝えていければと思う。とりあえずめっちゃ日焼けしたことだけ最初に伝えておく。

頭の競技である応援合戦は、練習よりも少し声が出ていないことが気になった。緊張してるのかな。でも、十分いい出来だった。

激戦となったタイフーン(棒を持って走る)は、なんとゴールまで3チームが並ぶギリギリの戦い。みんなで声掛け合うスタイルが功を奏して、ゴール後棒を早く立てることができ、ギリギリの優勝だった。みんな盛り上がっていた。

奇跡の始まりを予感させたのは、綱引きだったように思う。なんとあのBIG4率いる茶組から一本奪取。地の利を活かした攻撃だったのだけれど、予想通り二本目は秒で負けた。でも、後々この一本が大きな役割を果たすこととなる。

午前中終了時点で、学年としてもブロックとしても二位。やはり一位は茶組だ。午後の大玉転がしで茶組に負ければ青組の優勝の見込みはなくなる。

運命を握る大玉転がしだが、種目の順番の関係で、大玉転がしにはリレーの選手は出られない。その状態で、選手層の厚い茶組に勝たなくてはならない。

そして、もう一つ良くないお知らせが飛び込んできた。リレーのメンバーの一人Eが軽い貧血を起こして保健室へ向かったとのこと。それはもちろん体調第一だ。

間違いない、ここが正念場だ。

誰が声を掛けるでもなく、青組が集まって円陣を作った。

「絶対勝つぞー」

「おー」

今日一番の声が出た。

ちょっと不安そうな顔をしていたリレーメンバーに、お調子者のDが「絶対つなぐからな」と、いつになく真面目な様子で言った。

「俺達もワンツーフィニッシュするからな」

ガッツポーズを作ってリレーのメンバーもそう返した。

そして、運命の大玉転がし。二人組で順番にボールを転がしていく競技だ。

ヨーイドン!

スタートダッシュは決まった。あっという間に他の組を置き去りにする。ただ中盤から後半にかけて苦しい展開。紫組に並ばれる。抜かれる。茶組はまだ後ろだが、油断できない。

ここからがすごかった。声を掛け合って、粘りに粘って、再び紫組に追いつく。ゴールは紫組のほうが早かったが、この競技実はゴール後どちらかがボールを押さえ、どちらかがポーズを取らなければならない。役割分担をしていたことが功を奏して、それに手間取っていた紫組を抜いて、勝利。

地鳴りのような歓声が上がった。「つないだぞ!」拳を天に上げながら、リレーのメンバーに向けてDが声を張り上げた。

リレーのメンバーも渾身のガッツポーズで返す。みんな嬉しそうで、感動して泣きそうになった。まだ早い。

そこで、保健室からEが戻ってきた。

「体調は大丈夫なの?」という問いかけに、彼は一言だけ言った。

「走りたい」。

保健室の先生からもオッケーをもらい、復活参戦。

チームのムードは最高潮だった。

ここで勝ったチームが優勝。それは誰が見ても明らかだ。こっちまで伝わってくる緊張感。他の先生方も、保護者の方も、そして生徒たちも、その空気に包まれて、静かに入場を見守っていた。

さぁ、得意のリレーだ。

思い切っていこう。

これまでの日々や、努力や、作戦会議や、つながりや、各々の色んな想いを乗せて、エネルギーに変えて、思いっきり、楽しみながら、走れ。

アクシデントはあった。

Eが転んでしまったり、バトンがうまくいかなかったり、抜かれそうになったり。

でも、彼らは早かった。圧巻だった。今までのどの練習よりも早かった。

結果、堂々のワンツーフィニッシュ。

最後、早い方の組がもう一方の組を待って一緒にゴール。私は「おお、粋な演出!」と思ったけど、「真剣に走っていない」とペナルティをくらった。たしかに。

生徒たちは、みんな笑っていた。みーんな嬉しそうだった。AもBもCもDも。それ以外のみんなもやりきった顔をしていた。

すごいなぁ、みんないい顔するなぁ。

でも、Eの姿はそこにはなかった。なんとか自分の周は走りきったものの、ゴールを待たずして、大事を取って再び保健室に向かったのだ。

閉会式の整列が始まった頃、Eが泣きながら戻ってきた。声をあげて泣いていた。ちゃんと走れなくて、悔しかったのだろう。そんな彼に、クラスメイト達が声を掛けた。

「よく走ったよ!」「ナイスファイト!」「格好良かったよ!」「俺達勝ったよ!」

人知れず拍手が起こった。最初は小さな小さな拍手だった。

そこから、Eが列に戻ろうと泣きながら歩いているのを後押しするように、拍手はだんだんと大きくなっていった。

クラスメイト達だけじゃない。保護者や先生たちだけじゃない。他の組の生徒たちも、みんなで拍手をしていた。鳴り止まぬ拍手。感動的な光景だった。

私ももう泣きながら拍手をした。

「最高の体育祭でしたね」隣でベテラン先生たちが呟いたのが聞こえた。

うん、最高の体育祭だった。

気になる結果は、我ら青組の優勝!

前評判を覆して、ブロックと学年を制した。わずか4点差。あのペナルティを2つ分くらってたらと思うと恐ろしい。

「先生、叙々苑だね」と一瞬どこからか声が聞こえたが、残念ながら応援合戦は優勝できなかった。

でも、あなた達最高だったよ。

それは、私のささやかな夢だった。

私が中学校の教員になって、これまで担任として受験や行事を沢山経験してきたのだけれど、なぜか不思議と、受け持ったクラスが体育祭で優勝することはなかった。

別にそのことをそんなに気にしているわけではないんだけど、ふと生徒たちにそんな話をしたら、「先生、じゃあ俺たちが優勝してあげるよ」というので、楽しみが増えた。

「先生、俺たちちゃんと叶えたでしょ」

うん。

「ねぇねぇ、泣いた?」

うん。

「先生も嬉しい?」

うん。めっちゃ嬉しい。

でも、でもね、私の夢を叶えてくれたことよりも、嬉しいことを見つけたの。

それはね、

それは、あなた達がちゃんと人間として大きく成長していたこと。

人のことを考えて、頑張って、協力して、労って、みんなして楽しそうにしていたこと。

そのことが、とってもとっても嬉しかったの。

ありがとう。

あなた達に出会えて、よかった。

ますますこのクラスが、学年が、学校が好きになった、ある体育祭の一日でした。

こんな風な体験が毎年できるから、やっぱり教員って辞められないよね。

おしまい。

本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
今年もいくつかの体育祭を見て回りましたが、そこには色んなドラマがありました。