「親が持ってけってうるさいから」
修学旅行帰りの高校二年生が教室にお土産を持ってきてくれた。
「どこ行ってきたの?」「火星」
つまらない冗談と共に、悪戯な笑顔を見せた。
そうか、君とももう4年の付き合いになるのか。
最初の出会いは、ハロウィンの日だった。
その日、教室ではハロウィン会が行われていて、
マントを着て仮装をしていた僕に、
君は出会ったばかりなのにもかかわらず、こう言った。
「先生ってマント似合わない顔してるね」
どんな顔だよと思った。
いつの間にか授業を見る機会が多くなって、
得意も苦手も性格も大体把握した。いい子なんだけど、素直じゃない。
目的地は、七里ガ浜高校。内申点が全然足りなかった。
最初は学校の先生も「絶対無理だ」って言ってたけど、
君はその負けん気の強さで、ぐんぐん成績を伸ばしていった。
そして、見事合格をした。
合格発表の日、教室に来て開口一番「余裕だよ」と君は嘘ぶったけど、
あとでお母さんに聞いたら、家では嬉しくて泣いていたそうじゃない。
たまたま知ったその事実は秘密にしておこう。
それに、
「修学旅行のお土産、家にはないのに、塾には絶対持って行くって言ってきかないんですよ」
って、こちらから御礼の電話をしたら、お母さんが教えてくれたその事実も。
まったく、素直じゃないんだから。
でもね、合格した後にふと言ってくれた、
「俺、いつか先生より教えるのうまい講師になるよ」って言葉。
本当に思っているかどうかもちろんわからないけど、
たとえ嘘でも、今も大切に僕の胸の中にはとってある、
まるで宝物みたいな、とっても嬉しい言葉だったよ。
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