塾と物語というシリーズのお話です。
その舞台は、どこかの街にある小さな塾。塾長一人に、講師が数名いるようです。もちろん注意書きにあるようにフィクションです。
物語を通して、色んなことが読んでくれた人に伝わるように、あれこれ模索しながら書いています。よかったら気軽にご覧いただけると幸いです。
第五弾は「君と僕と」というタイトルです。
君は、僕の最初の生徒だった。
成績はボロボロ。授業態度も悪くて、沢山叱った。
宿題をやってこなくて授業後は毎回居残り。ノートが汚すぎて、何回も書き直しさせた。助手を「たすけて」と読んだ時はちょっと驚いた。
そんな君にも高校受験の時は来て、二人で相談して志望校を決めた。「俺、どうしてもこの高校に行きたいんだ」って、真剣な目で君は言った。僕にはそれがすごく嬉しかった。今までにそんな事はなかったから。
学校の先生からは「無理だ。諦めろ」って言われたね。努力した。悔しくて泣いた日もあったよね。君は頑張った。そして、満面の笑みで合格の報告に来てくれた。僕は、君以上にはしゃいで怒られた。
あのね、君には秘密にしていたけど、実はもう一つ嬉しい事があったんだ。合格の報告に来てくれた時、一緒に教室に入ってきたお客様の為に、 ドアを開けながら、「傘立てそちらですよ」って声をかけた君。そんな事が出来るとは思っていなかったから、余計嬉しかったよ。塾長も「最初は敵意満々で塾に来た子が…人は変わるね」って笑ってたよ。勉強だけじゃなくて、君はいつの間にかに人としても成長していた。
高校では「クラスで一番」を目標にしたね。バイトや恋愛の相談にも乗った。失恋した時は、「これで忘れろ」って宿題を50ページ出した。ちょっとやりすぎた。
当初の目標通り、君は成績をきちんと取って、推薦で理系の大学に進んだ。沢山のおめでとうに彩られて、君の塾生活は終わった。卒業の時は、一緒になって泣いた。
それから何年か後、結婚する彼女の親に反対されて、この仕事を続けようかどうか迷っていた僕は、道端で偶然君に会った。
君は、システムエンジニアになる夢を叶えていた。
「あの頃さ、先生にパソコンの知識褒められたから、この職業に決めたんだよ」と笑う君。先生に会わなかったら、もしかしたら学校行かなくなってたかも、と小さく呟いて、 「先生に会えてよかったよ、俺」ともう一度笑った。その笑顔は、昔のまんまだった。
違うよ。会えてよかったのは君じゃない。僕なんだ。君のおかげで、僕の気持ちも決まったよ。この仕事はやっぱり辞められない。
僕も、君に会えてすごくすごくよかった。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
少しずつつながってるんです。
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