詩人というものを想像するときに、真っ先に浮かんでくるのが、谷川俊太郎さん、その人でした。
「どきん」「生きる」「スイミー(翻訳)」「朝のリレー」「二十億光年の孤独」など、教科書でも多くの言葉が採用されています。また、全国各地の校歌も作詞されているんですよね。
おっしゃる通り、日本人の「国語」を支えた一人だと思っています。
最後に、私の好きな「あなたに」という詩をご紹介したいと思います。谷川さんが、母校の豊多摩高校に贈った詩なのだとか。今でも卒業生たちはこの詩を読み継いでいるそうです。素敵。
あなたに
燃えさかる火のイメージを贈る
火は太陽に生まれ
原始の暗闇を照らし
火は長い冬を暖め
祭の夏に燃え
火はあらゆる国々で城を焼き
聖者と泥棒を火あぶりにし
火は平和へのたいまつとなり
戦いへののろしとなり
火は罪をきよめ
罪そのものとなり
火は恐怖であり
希望であり
火は燃えさかり
火は輝く
あなたに
そのような火のイメージを贈る
あなたに
流れやまぬ水のイメージを贈る
水は葉末の一粒の露に生まれ
きらりと太陽をとらえ
水は死にかけた
けものののどをうるおし
魚の卵を抱き
水はせせらぎの歌を歌い
たゆまずに岩をけずり
水は子どもの笹舟を浮かべ
次の瞬間その子を溺れさせ
水は水車をまわしタービンをまわし
あらゆる汚れたものを呑み空を映し
水はみなぎりあふれ
水は岸を破り家々を押し流し
水はのろいであり
めぐみであり
水は流れ
水は深く地に滲みとおる
あなたに
そのような水のイメージを贈る
あなたに
生きつづける人間のイメージを贈る
人間は宇宙の虚無のただなかに生まれ
限りない謎にとりまかれ
人間は岩に自らの姿を刻み
遠い地平に憧れ
人間は互いに傷つけあい殺しあい
泣きながら美しいものを求め
人間はどんな小さなことにも驚き
すぐに退屈し
人間はつつましい絵を画き
雷のように歌い叫び
人間は一瞬であり
永遠であり
人間は生き
人間は心の奥底で愛しつづける
あなたに
そのような人間のイメージを贈る
あなたに
火と水と人間の 矛盾にみちた未来のイメージを贈る
あなたに答えは贈らない
あなたに
ひとつの問いかけを贈る
やさしさとこわさ、強さと弱さ、そんな相反するものたちを包み込んで届けてくれる谷川さんの文章が大好きでした。
ご冥福をお祈りします。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
ことばを、大切にしたいね。
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