真冬だというのに、僕は汗をかいていた。
マフラーに超ヒートテックに厚手のコートという格好で、そこそこの距離を歩いたからだろうか。駅に着くなり、水分と塩分が欲しくなり、蕎麦屋へと入った。
僕はそこで冷たいうどんを頼んだ。一瞬注文を知った店員さんが「冷たいの!?」と驚いた様子だったが、僕には確固たる決意があった。冷たいのが食べたい。決意を固めた人間に、季節は関係ない。
待っている間に水を一杯飲み干し、準備万端。想像の中で、冷たいうどんを咀嚼する。うん、美味い。やはりこの決断に間違いはない。早く食べたい。
そして、念願叶い、ついにご対面のときがやってきた。店員さんの声とともに、カウンターから差し出されたうどん。後光が差すかの如く、光り輝いて見えた。うん、それは流石に言い過ぎた。
兎も角、それを待ち望んでいたのは間違いない。カウンターでうどんを受け取り、席へ着く。コートとマフラーを脱ぎ、箸置き場から箸を手に取る。「いざ!」と意気込んで、一口目をいただこうかと思ったその時、
「ふっ」と、僕はうどんに息を吹きかけていた。
冷たいうどんなのに。
あたかも、それを冷まそうと、息を吹きかけたのだ。
しかも、「ふっ、ふー」と二度も。
僕は何にビビっていたのだろう。
あれ程食べたかったうどんを目の前に、僕は固まっていた。
誰に見られたわけではないが、恥ずかしくて。大した事ではないが、衝撃的で。
多分この時、僕は戦っていたのだと思う。相手は自分。そう、自身のプライドと、だ。
「なぜこんな真似をしてしまったのか…」
思考を巡らす僕に、もう一人の自分が言う。
「いや、これは考えてやった行動ではないよ。俗に言う、習慣ってやつだよ」
な、なるほど…そうか、これが習慣の力か…。
そこで僕は、自分のプライドを守るために、こう結論づけた。
今までの「ふっ」が、その積み重ねが、今回僕にこの意味もない「ふっ」をさせたのだ、と。
これは、いわば自己防衛。猫舌の僕が火傷から自分を守るために身につけた技術。
そんな技術を考えずに出来たということは、これはむしろ、誇れることなんじゃないか。
そう、すべては、習慣の為せる技。
習慣、恐るべし。
というわけで、生徒たちには習慣の大切さを改めて伝えようと思いました。
受験や期末テストといった総合的なテストが多い中、
みんなが頑張るこのタイミングでは、
今まで積み重ねてきたものの差が特に現れやすい。
いわば、今まで積み上げてきた習慣対決をしていると言っても過言ではないだろう。
そして、厄介なことに習慣はすぐにはつかない。身につけるには、それ相応の月日が必要だ。
だから、今から。今日から。この瞬間から。
本番でベストを尽くせるように、日々日々コツコツ良い習慣を強化していこう。
早起きとか、テストの受け方とか、集中力の使い方とか、大事だよね。
と、そんなところまで考えが及んで、戻ってきた。
うどんはもうすっかり冷めてしまっていた。いや、違った。最初から冷めていた。
僕はちょっとスッキリした気持ちでうどんを食す。
そして、腹八分目になって、お店を出た瞬間に我に返る。
さむい。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
日常回。
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