「なんか文章書きたい」
「じゃあお互い同じお題で書いてみようか」
のたった二言で始まりました。生徒との作文対決。対決と言っておきながら、特に対戦要素はないのですが。
「お題はどうする?」「じゃあ早口言葉で」これもすぐに決定。
というわけで、久々にお話を一つ書いてみました。適当に短く気軽に読めるので、お茶やコーヒーでも片手に、楽しんでいただければ幸いです。
早口言葉
「おぬしが早口言葉を噛まずに3回言えなければ世界を滅ぼす」
いきなりだけど、想像してみて欲しい。朝目覚めたら目の前に神様を名乗る超ビッグサイズのお爺さんがいて、突然僕に向かってそんなことを言い出した時の気持ちを。夢か?幻か?ほっぺたつねっても目は覚めない。
想像できたかな。いや、きっとできないよね。こんな状況、誰が信じられるだろうか。当事者の僕もまだ信じられない。
なぜ僕が?ここどこ?あんた誰?そもそもなんで早口言葉?色んな疑問が浮かぶが、自称神様が「好きな早口言葉を選んでいいぞ。あと10秒で始める」なんて言うからすべて吹き飛んだ。
え、え、何にしよう。なるべく簡単なやつがいいよね。バスのやつ?パジャマのやつ?ガス爆発のやつ?あ、一緒やん。
巡る悩みにつられてなのか、ある記憶が甦ってきた。走馬灯ってやつかもしれない。そう、あれは小学生の頃。早口言葉が流行っていたうちのクラスで、休み時間に大会が行われた。
ちょうどその時は団体戦。滑舌が悪かった僕は出場に乗り気じゃなかったんだけど、親友と好きな娘に誘われて、チームになって参加した。二人は得意で、大将の位置に座る僕に一度も周ってくることなく、僕らは決勝まで勝ち進んだ。
嫌な予感はしていた。それは見事に的中し、一勝一敗で僕の番になった。
そして、白熱の決勝で僕が盛大に噛んで負けた。大爆笑の渦の中、僕はもう早口言葉は言わないと心に決めた。ちなみにその後、親友と僕が片想いしていたその娘は付き合った。
そこまでの物語があっという間に脳内に走った。走馬灯って便利だ。
「準備はいいか?」自称神様が僕に尋ねた。僕は頷いた。
これはリベンジの機会だ。神様が与えてくれたチャンスなのかもしれない。これを乗り越えれば、もうあの日を思い出して震える夜もなくなる。悪夢を見て飛び起きる朝もなくなる。親友と好きだった娘の結婚も素直に喜べる気がする。
僕はやれる。早口言葉の呪いを解いて、自由になれる。秘策もある。
「では…」神様が手をあげる。そして、「始めぃ」の声とともに振り下ろす。
僕は決死の覚悟で神様の裏をかいた言葉を紡ぐ。早口言葉を噛まずに3回。これなら僕にもいける。僕は早口言葉を克服し、世界を救い、同時に僕自身も救うんだ。
「早口言葉 早口言葉 早口言びゃ…あ…」
世界は滅んだ。
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