「では、今日は将来についての勉強をしてみましょう」
HOME個別指導塾のSE授業が始まる。
塾長の合図に従って、僕と相棒のロイドくんは、iPadの画面を覗き込んだ。
そこには、ビシっとスーツを着たカッコイイお兄さんが映っている。
「やぁ、こんにちは。僕は夢田といいます。あなた達は?」
簡単な自己紹介を済ませた後、早速夢田さんは話を始めてくれた。
「プログラミングに興味があるんだって?それはとってもクールなことだ。僕が高校生の時にはそんなこと考えたこともなかったからなぁ。どうして興味をもったの?」
「スマホやパソコンの中の世界がすごく気になって。なんだか可能性を感じるんです」
「それは素晴らしい。いいね、確かにその世界にはまだまだ無限大の可能性が秘められている。そして、君のような若者がその世界を変えていくんだろうなぁ。なんて、オッサンくさいかな。さぁ、それじゃあ早速僕のお仕事について説明するよ」
夢田さんはプログラマーやシステムエンジニアのお仕事について僕らにもわかるように噛み砕いて簡単に説明してくれた。上流工程などの言葉はなんとなく聞いたことがあったけど、今日のお話でだいぶ業界全体のことやお仕事の流れが掴めた気がする。夢田さんが考えるこれからの展望も聞けた。ワクワクした。僕がしたいことも、より明確になってきた。
「今のうちにこれは勉強をしといたほうがいいってことありますか?」
質疑応答の最後で、僕は夢田さんの目を見据えて、一番聞きたかったことを訊いてみた。やっぱり早いうちにプログラミングの技術を学んだほうがいいのかなって不安があったからだ。
「うーん。もちろん一概には言えないけれど」夢田さんはそう前置きしてから言った。
「プログラミングの知識や技術は確かに重要だ。知っておくに越したことはないと思う。でも、中学生や高校生の頃にはもっと大事な勉強があると僕は思うんだ。苦手なことにチャレンジしたり、困難と闘ったり、多くの人とコミュニケーションを取ったり、基本を理解したりね。それをした上で、まだ君に余裕があるのなら、プログラミングを学ぶことは悪いことではないと思うよ」
プロとして、実際の現場でバリバリ活躍しているカッコイイ大人から、そんな言葉をもらって僕は少しだけ安心することができた。
「ありがとうございます!」
「とんでもない。僕も楽しかったし、とても有意義だった。なんだか初心を思い出したよ。いつか一緒に仕事ができる日を楽しみにしてる」
画面上だから握手はできないけれど、と言ってから夢田さんは自分の拳を僕に向かって突き出した。僕はそこへ自分の拳を重ねる。
「ありがとうございます!頑張ります!」僕は改めて心を込めて御礼を言った。
「将来を見据えるのは大切なこと。それが勉強の目的になることも多いからね。世界には教育に携わっていなかったとしても、教育に興味関心があって、意欲のあるカッコイイ大人がたくさんいる。彼らと、世界の未来を担う君たちをつなぐのが、このSE、スペシャルエデュケーションの目的だ」
塾長が熱弁している目の前で、ロイドくんが寝そうになっていたので肘でつつく。
友達は、獣医や宮司や広告のクリエイターの話を聞いたらしい。世の中には色んな職業があって、それについて悩んだり迷ったりすることは、いつか必ず自分たちが通る道でもある。その話を先取りで聞けるのは、とても大きな経験だ。もちろん、将来やりたいことやなりたいものが決まっていない子も多いけれど、このSEの機会は刺激になっているようだ、と生徒の僕だって感じる。大人たちはみんな、仕事以外の雑談も混じえて話してくれるから、すごく聞きやすい。中には勉強を教えてもらう子もいる。そこに「こうしなくちゃ駄目」なんてルールはない。聞いたほうがいいこと、聞いちゃいけない質問、なんて垣根もない。リードが必要な子には、大人たちがちゃんと話の道標を作ってくれる。それに、すべての情報は塾長が把握しているから、何かあっても安心だしね。
カッコイイ大人が子どもを育てる。
逆に言えば、大人が格好良ければ、それが子どもたちにとって一番の教育になるじゃないか。
僕はロイドくんに今日の授業の振り返りをしたあと、ふと気になって尋ねてみる。
「今日の夢田さんのお話、どうだった?」
言葉を選んでいるのだろうか、少しの沈黙のあとロイドくんは言った。
「好きな人の、好きなことを聞くのは、楽しい」
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
距離を0にできる世界だからできる、未来の教育を。
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